【あらすじ・見どころ】何者/ 朝井リョウ
〈作品について〉
第148回直樹三十五賞受賞作品。
映画化、舞台化もされている作品。
他作品の「桐島、部活やめるってよ」では小説すばる新人賞を受賞するなどしている。
〈あらすじ〉
就活を控えた中、偶然にも出会った5人は協力しながら内定を勝ち取ろうとする。
人間観察が得意な拓人、チャラチャラしつつも裏では就活をこなす光太郎、事情を抱えながらも就活をする瑞樹、帰国子女で不器用さが目立つ理香、意識高い系だが結局は周りに染まっていく隆良。
協力はしているが、どこか批判的な目で互いを見てしまっている。自己分析、他者との比較、理想と現実との乖離……。自分という存在をもう一度見つめなおすとき、自分たちが一体「何者」なのかを理解し始める。
就活という人生のターニングポイントを中心に描かれる、SNSが発展した現代ならではの考えを基にした人間ドラマ。
〈見どころ〉
見どころ①
一般的な大学生の就職活動。その中に見え隠れする人間性の虚弱。
それがこの作品のテーマではないかと感じた。いやテーマといっても、一貫して書き連ねているわけではない。ただ、日常生活の中で感じるわずかな違和感が、人間分析が得意な主人公の手によってクローズアップされている。
人間は完璧な存在ではない。当然、虚弱なんかが見えることもある。仲を深めるにつれ、人として見られたくない部分が徐々に漏れ出していく。それと同時に、自身の見られたくない部分も露呈されていく。就活に対する、焦り、嫉妬から、次第にはっきりと見えてきてしまう。
そうした虚弱がところどころに散りばめられているというのが本作の面白いところではないだろうか。
見どころ②
この小説ではSNSを題材として取り上げている。人間関係や自己発信がSNS上で多く行われている中、わずか数十字~数百字で自分が「何者」であるかを伝え、見る側はできる限り簡潔にまとめられた内容で「何者」かを判断しなくてはならない。
その「何者」かと発信する自分は本当に同一視できるのだろうか。見せかけのマネキンではないのか。そういった社会に対する訴えかけも、見どころの一つである。
事実、私もTwitterでつぶやく際は、無駄がないようできるだけ言葉を省いて、大切なものだけを140字に収めている。それは自分の伝えたいことの、ほんの数パーセント人しかすぎないのだと、あらためて実感した。
見どころ③
個人的には、烏丸ギンジと宮本隆良という二人の人物を対比しながら読み進めてほしい。主人公・二宮拓人は二人を似たものと一括りにしているが、実際にはそうではない。
似てはいるが大きく異なる。確かに外枠は同じなのかもしれない。しかし本質を見ると、全くと言っていいほど対立関係だ。それは本書を読み進める際に探してみてほしい。
〈総評〉
直木賞という補正抜きでも十分楽しめる作品であることは間違いないな、と感じた。
出版から数年経ってはいるが、今に近い現状と社会の問題を風刺されていて、いかにもモダンという印象を受けた。
主人公に対する感情移入も比較的楽ではあるだろうし、文豪チックな言い回しなどはほとんどないので読みやすい。
複数の人間が織りなす生活模様と関係性が巧妙に描かれる、この作品。
至る所に存在する綻び。
ぜひ、皆さんも読んでみてください。
〈書籍〉
朝井リョウ(2012)『何者』 新潮社