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【あらすじ・見どころ】『ハケンアニメ!』/辻村深月

【作品について】

 2015年本屋大賞第3位に選出された作品。

 

【あらすじ】

 現代日本はアニメ戦国時代。どのアニメも各クールの覇権を争い、関係者は「ハケンアニメ」を目指して日々努力している。

 中堅アニメ会社に勤務するプロデューサー・有科香屋子は、とある人物に憧れを抱いていた。それは日本の地上波アニメの歴史を10年進めた、と呼ばれた大ヒット作『光のヨスガ』を制作したアニメ監督・王子千晴だった。

 彼女の「いつか王子千晴と仕事をする」という夢は現実になる。その作品は「運命戦線リデルライト」。香屋子と千春は奮闘しながらも、アニメ制作を進める。横暴で我儘な千晴であったが、裏を返せば一切の妥協を許さない、という何とも我の強い人物だった。そんな千晴をどうにか管理しながら、ひたすらもがく。

 一方、同じクールでは人間付き合いがうまくできない監督・齋藤瞳といやらしいほどの仕事ができる敏腕プロデューサー・行城のもと、覇権を求め努める。

 多くの人の協力の下で作りあげられるアニメ。その中で一番となるのはいったいどのアニメなのか!?アニメ現場のリアルの中で現代らしさを詰め込んだ一作。

 

 

 

【見どころ】

 

 アニメ現場のリアルを追求した作品。端的にこの作品を伝えると、そんな作品である。

 本の後ろ側を読めばわかるが、多くの人の協力の下つくられている作品なので、かなり現場に近いんだろうなという印象を受けた。実際はどうなのかはわからないが、同じような苦労はしているのだろうと苦労の一端は少しだけであるが理解できた。

 それはさておき、本題に入ろう。

 

見どころ①

 「この業界周りで働く人たちは、皆、総じて愛に弱いのだ」いう一文がある。

 これはおそらく辻村さんが取材した際の感想なのではないかと思う。

 そして、それゆえこの作品ではアニメというコンテンツに対し、好きだからこそ泥臭く戦いながらも、強く生きる人たちが描かれている。

 出来る限り、少しでも、一ミリでも作品をいいものにしようと日々頑張る姿が印象的だ。アニメといっても、その広がりは多種多様である、というのがよく伝わった。

 絵を描く人、宣伝する人、フィギュアを作る人、それらをまとめる人、ここでは書ききれない人たちが一丸となって作品を作りあげている。

 すごいと感心すると同時に、 好きなものに一生懸命になれるっていいな、と素直に感じてしまった。

 苦しくても苦しくても、どうにかして形にして、そしてそれが集まって一つの作品になる。

 アニメの現場なんてぼんやりとしかわからないし、たとえこの作品を読んだとしても苦労のすべてがわかるわけではないけど、そういう人たちが制作したアニメが見たいと思うような作品だった。

 

 

見どころ②

 タイトルにもなっている「ハケンアニメ」。ここでは、「そのクールで一番パッケージが売れた作品」というように定義づけされているが、本当にそうだろうか?

 作品の後半でも少し触れられているが、覇権とは何か、一番とは何かを考えることはこの作品の大きな見どころである。

 昨年の夏、甲子園で優勝したのは大阪桐蔭であったが、日本中を沸かせたのは金足農業であっただろう。

 目に見える形で一番になったからといって、全てにおいて一番になったとは言えない。別の形で一番になることだってあるというような訴えかけにも聞こえる。

 また、一番になれなかったからといって、これまでの努力や積み重ねを棄却する必要は全くない。 

 おそらく、同じクリエイターである作家だからこそ、そうした訴えが鮮明に伝わってくる。

 

 

【総評】

 好きなものに一生関わるというのは大変かもしれないが、それ故必死に食らいつく人間らしさがビシビシと伝わる。 

 それだけではなく、日本人なら誰しも触れたことがある「アニメ」という現場が良くも悪くも明らかになっていく様は、すごく面白いし勉強にもなる。

 無論それだけではなく、人間として黒い部分であったり、華やかな恋愛シーンが描かれるなど、「アニメ」というジャンルではあるかもしれないが、とにかく要素が詰め込まれていて面白い。

 さらに辻村深月らしい伏線の張り様、登場人物の変容など小説としての面白さももちろん兼ね備えてある。

 

 アニメ大国と謳われる日本に住む日本人であれば、一度読んでみてはいかがだろうか?

 

 

〈書籍〉

辻村深月 (2014)『ハケンアニメ!』 マガジンハウス

 

ハケンアニメ! (マガジンハウス文庫)

ハケンアニメ! (マガジンハウス文庫)