【あらすじ・見どころ】『体育館の殺人』/青崎有吾
〈作品について〉
第22回鮎川哲也賞受賞作品
〈あらすじ〉
風ヶ丘高校の旧体育館で、放送部部長の少年が殺された。現場近くに居合わせた生徒たちの証言によると、当時体育館は密室状態だった。唯一犯行可能な人物として卓球部部長が容疑者として疑われてしまう。部長の疑いを晴らすため、卓球部員・柚乃は期末テスト全教科満点、学年随一の天才と噂される裏染天馬のもとを訪れる。
一見するとただのアニメオタクでダメ男。しかし、10万円で部長を助けるという裏染。さらには、追加料金5万円を支払えば事件を解決すると話す。
田嵐ない生活を送る裏染が信用ならない一方、優れた観察力と妙妙たる思考力を持つ裏染を頼りにせざるを得ない。
そんな裏染の手によって事件は少しずつ解決に向かっていく……。
〈見どころ〉
見どころ①
まず特筆すべきは鮮麗されたトリックだ。
ミステリー小説の中核を担うトリックだが、本当に細かく構成されている。
各々がいた時間・場所がうまい具合に犯人を絞らせない。物語が進み情報が増えてもトリックがうまく作用し、物語終盤まで犯人が特定できず、読者を飽きさせないような構成をしている。
犯行動機だったり、事件の中身に関しては粗が見えたり、疑問が浮かぶところもあるが、トリックに関していえば本当に良く作られていると感じた。
さらに、この小説では「読者への挑戦」のコーナーが用意されている。自分が探偵になったように、推理を楽しむことができるのもミステリー小説の醍醐味だろう。
見どころ②
ラノベチックで展開されるという点がこの小説の特色であり見どころだ。
作者の青崎有吾がライトノベルの賞に応募していたこともあってか、本文の至る所にその要素が組み込まれている。そういう経緯からか、文章もくどく感じる箇所があったり、ライトノベル調な部分があったのは少し気になってしまった。
私はそれほどアニメだったりライトノベルに詳しくはないが、おそらく精通していればさらに楽しめる要素が増えるのだと思う。
〈総評〉
トリックに関しては素晴らしくなってあるが、ライトノベル調であるため読者を選んでしまうかなと思った。もちろんアニメなどの知識がなくてもミステリー小説として楽しめることには楽しめるが、元ネタがわかっていたほうが断然楽しめるというのは自明である。
〈書籍〉
青崎有吾 (2015)『体育館の殺人』 東京創元社