【あらすじ・見どころ】『ピアノの森』
ピアノ。それが一人の少年の人生を決めた
〈あらすじ〉
ピアニストを志す5年生・雨宮修平は小学校に転校してくる。モテ囃される転校生が気に食わないガキ大将・金平大学は小学校に隣接する森のどころかにあると言われる「森のピアノ」を弾きに行くよう命じる。
そのピンチを助けたのがクラスメイトの一ノ瀬カイだった。カイは壊れて弾けないと言われている「森のピアノ」を何故か弾くことができる人物だった。さらにカイはわずかにずれた調律を聞き分け、一度聴いた曲を再現できる技術を持っていた。
また、ふとしたことから彼らの通う森脇小学校の音楽の担当・阿字野先生が世界的ピアニストであることを知る。
カイの運命はこの二人と出会うことで大きく変わる。
写実的に描かれる人間関係を優しいタッチで描く。世界を目指すピアニストの物語。
〈見どころ〉
見どころ① カイの成長談
この物語の中核を担うカイは、幼いころから劣悪な環境で育ってきました。
母親は水商売をし、父親はいない。さらに、自宅は「森の端」と呼ばれる色町通り。
そんな彼を支えていたのは、「森のピアノ」でした。いつだってつらい時はピアノに頼り、趣味ながらも弾き続けていました。
それまでただ何となく生きていたカイが、修平と阿字野先生と出会うことで真剣なピアノと触れ合い、やがて本気でピアノと向き合う様子は胸の内に熱い何かが込み上げてきます。
見どころ② リアルな人間関係
人と人との関係性を描くのが上手いと感じました。
ここではその一例として、
カイの母親は水商売をしている、ということはクラス中に広まっており、特にガキ大将の金平はそれをずっと言い続けています。
マンガ内では、相手が小学生ということもあり少し簡単な表現でいますがそれがどうもリアルだなぁ思いました。純粋が故に残酷。何も知らないがために何でも言い放題というのは恐ろしいなと感じました。
一方、辛い状況下でも立ち向かうカイが本当に強い人間だなと見ることができます。
修平も初めはいじめられていたものの、カイの近くにいることで成長していきます。
小学生ならではの空気感をリアルに描き、それが少しずつではあるが大人に近づく様子が緻密に表現されているところにはぜひ注目してもらいたいです。
見どころ③ 登場人物の豊かさ
1番は登場人物の感情表現が豊かな点かなと思います。
音楽は人の気持ちを自在に操るため、感情を表現するためには不可欠だと思います。
このマンガではそれが細密に表現されています。
特にカイと修平は喜怒哀楽の移り変わりが多いので、1コマ1コマの表情に注目してもらいたいです。
もっと言えば、顔の造形も結構変わります。イケメン、スケベ顔、まん丸に膨れた顔。表情だけじゃないという部分も注目して読んで欲しいです。
ほとんどの登場人物とは対照的に阿字野先生の表情の変化はほとんど見られません。その対比、また今後どのように変化していくのかというところも見ておくべき点ですね。
〈総評〉
コマ割りや画力が突出しているわけではない、というのが正直な感想です。
しかし、見どころであげたように感情表現や人間関係のリアルさの表現は巧妙であり、あっちこっちに感情移入して良い意味で忙しい。
そして物語の展開、構成もすごくよくできていて、引き込まれます。これが柔らかいタッチと相まって自然に体と馴染みます。雰囲気がふわっとしているので軽い気持ちで読み進められるのではないかと思います。
一方で、重厚感ある内容が特徴的です。見た目とは裏腹の、複雑な人間模様を丁寧にまとめ上げています。
そこでこの作品、個人的には83点という点数をつけたいと思います。
〈書籍情報〉