【今更シリーズ】『秒速5センチメートル』見てみた 【あらすじ・感想】
ついについに、この日がやってきました。
ご存じの方も多いのではないでしょうか?新海誠監督が手掛けるアニメーションシリーズが、なんとAmazonPrimeで公開されたのです。この日をどんなに待ちわびたことか……
もともと映画に興味があまりなかった私は「君の名は。」で新海監督を知るのですが、その公開年は大学受験の年で見ることはなく終わりました。
その後、2018年のお正月特番で見て感動したので、新海監督の手掛ける作品を見ようと思い、まずは見たことある友人たちに聞いてみました。
ところが、「『君の名は。』が作品として救われている。他の作品は救われない」と一蹴されてしまいました。Twitterでもチラっと見たんですが「新海監督のなかでは一番見やすい」「心が苦しくない」などの感想を見ました。ネタバレを避けたかったので詳しくは見ませんでしたが、そういう情報を聞いて以来は作品のレンタルを敬遠していました。
しかし、ようやくAmazonPrimeでも公開、ということでこれはいよいよ見るしかないというわけで、今更ながら『秒速5センチメートル』を見ることになりました。
〈あらすじ〉
秒速5センチメートルは、短編3話のアニメーションで構成されています。
それらは遠野貴樹と篠原明里を中心とする物語になります。
第1話 桜花抄
東京に引っ越してきた遠野貴樹、その1年後に同じ小学校に転校してきた篠原明里。
ふたりは精神的にどこかよく似ていた。病気がちだった二人は図書室が好きで、自然と仲良くなった。
ずっと一緒にいられる、貴樹はそう思っていた。そんな中、明里は小学校を卒業するタイミングで栃木に転校してしまい、それ以来会うことはなくなってしまう。
しかし、中学に入学して半年が経つ頃、明里と文通を始め、再び交流をするきっかけができる。
その半年後、今度は貴樹が鹿児島に転校することに決まる。もう2度と会うことはないかもしれない。そう感じた貴樹は、電車を乗り継ぎ、明里に会いに行くことを決心する。
第2話 コスモナウト
種子島に住む高校3年生・澄田花苗は、中学2年の時に転校してきた貴樹に恋心を抱いていた。好意を寄せる一方で、貴樹がどこか遠くを見ていることが気になっていた。
また花苗は、趣味のサーフィンもうまくいかず、さらに進路も未だ決めきれずにいた。
女子高生の淡い恋心を描いた物語。
第3話 秒速5センチメートル
社会人になった貴樹は東京に戻っていた。彼はどこか遠くの、自分でもわからない高みを目指してもがいていた。仕事に没頭することで自分を維持していたが、やがて自分自身が擦り減り、仕事もやめてしまった。
貴樹は13歳のあの日から、ずっと明里を追い続けているのだった。
とある春の日、貴樹は桜を見に外に出る。小学生時代の通学路を懐かしみながら歩く。踏切に差し掛かると、反対側から一人の女性が歩いてくる。貴樹は小学校のときを思い出し、もしかしたらと振り返る。今振り返れば、彼女も振り返るはずだと。しかし、二人を電車が遮る。
電車が過ぎると、そこに彼女の姿はなかった。
〈見どころ・感想〉
まずは一言。
本当にいい作品でした。
本当感動できる内容だったし、絵も綺麗ですごく見ごたえがありました。これが1時間の映画かと思うほど濃密な内容でした。
ではこれからは、これから見る方に見て欲しい見どころ、そして詳しい感想を綴っていきたいと思います。
感想部分はネタバレを含みますので読む方はご注意ください。
・見どころとして
一連を通して映像が美しい。背景、特に日常の何でもない、どこにでもあるような風景を切り抜くのはやっぱり上手い。その映像のためだけにも見る価値があると思います。
あと個人的に思ったことですが、光の表現が絢爛で煌びやか。
「光」というと白っぽいような、黄色っぽいようなものをイメージすると思いますが、この作品では様々な色の「光」が使われていました。
桜の季節。教室に入り込む日差しは爽やかな桃色。机に反射する光は明るい青。
陽の光といっても、時間帯や場所によっては赤だったり青だったり、黄色だったりと多くの色が混ざってできています。
それを細密に的確に表現しており、アニメながらの調整ができるため、いつもの日常のはずが、いつもとは違う場所に見えて、それが幻想的に描かれています。
人間関係の複雑さも、上映時間は短いながらも丁寧に描いています。
お互いが好きであれば付き合えるという一辺倒なものではなく、好きにもいろいろなかたちがあるということを精巧に描いたのが特徴だと思います。
王道ともいえる青春であり、各話それぞれのテイストがかなり異なるので見ていて飽きることなく、むしろ視聴者を十二分に楽しませてくれる内容でした。
また同じ場所が時間をおいて何度か出てきます。
例えば貴樹の部屋は小学生の時から中学1年生まで登場しますが、歳や季節によって部屋のスタイルや様式が異なっています。
そういった季節感や歳月の変化にも注目して見てもらいたいですね。
また、この作品にはモブキャラがほとんど登場しません。ほとんどが貴樹、明美、花苗の視点で物語が展開されるため、各登場人物の思いや行動に集中してみることができます。
そのため、逆に焦点が当たっていない人物のほうにも注目して見てもらいたいです。第1話と第3話であったら明美、第2話であったら貴樹の行動や心を考えながら見てもらうと面白いと思いますよ。
※以下ネタバレを含む感想となります
第1話 桜花抄
この話の大半は、明里の手紙と貴樹の一人語りとなっています。
それ故、小説チックで風情を感じました。文通という所も、ロマンチックでいいですよね。
内容自体、序盤から中盤にかけてのキラキラしている雰囲気がすごく好みでした。小学生の頃の、仲いい女の子。好きなのかどうかわからない関係というのは、純粋ならではの青春という感じがします。
そのころの貴樹が友人として好きなのか、異性として好きなのか明言はしていないですし、あえてそこはぼかしているのかと思いましたが、その微妙な距離感がいいなと思いました。
大人になれないがため、別れに耐え切れない貴樹も、それに押しつぶされそうになる明美も、別れに耐え切れない様子が演出されていて。さらにそこから文通を始めるという成長も羨ましいなと思うぐらい、楽しそう。
こんな感じで、基本的にはこの「桜花抄」は見ていてほっこりできました。
後半、貴樹が明美のもとを訪れるシーン。初めてする1人での大きな旅に緊張する貴樹の描写にはこっちまでドキドキさせられました。一方で、中学生ならではの明るく希望に満ち溢れた「会いたい」という気持ちが甘酸っぱくて、青春しているんだなと感じましたね。
付き合っていないが、自分の好きな人に会う「喜び」と「不安」が鮮明に描かれており、また雪と重ね合わせて描写しているところはいいなと思いました。
二人はちょっとだけ大人になったけれど、関係性は昔のまま。それを示唆するように吹雪は少しだけ収まり、秒速センチメートルで落下している。その少し凝った表現もまたいいですよね。
二人は会ったものの、「僕たちはこの先もずっと一緒にいることはできないと、はっきりと分かった」と貴樹が悟ってしまう。
しかし、その日その瞬間だけは忘れることができた。
それまで、悲しい要素はできるだけ排除して、「会いたい」という希望だけが募っていたのに、このシーンで急に現実味を帯びます。ここから最後のシーンは、第2話に続く切なさの伏線と思うと胸が苦しくなりました。
監督は最後の最後でそういうことをさせるのか、と正直思ってしまいましたね。
結局、明里も貴樹も、ずっと一緒にいようとは決して言わなかった。
「貴樹君は、きっとこの先も大丈夫だと思う。絶対」
軽快な音楽、希望を持った別れと思いましたが、それが決別のように聞こえてしまいました。
全体的に希望と明るさに溢れた話でしたが、最後に切なさの余韻を残すという、なかなか風情のある終わらせ方をするんだなと思いました。
第2話 コスモナウト
この話は「桜花抄」とうって変わって憂愁な展開で、涙の雫が胸に落ちるかのように、悲しい話だと感じました。
まず、ここでは貴樹の深層心理が描かれているのが非常に印象的でした。
遠く離れた鹿児島に行ったにもかかわらず、明里のことを忘れることができず、夢にも出てきてしまう。もう、会うことはできないかもしれないのに。
そう思うと急に悲しくなりました。これが『秒速5センチメートル』が辛いと言われる所以かとしみじみしてしまいました。
そんな貴樹に恋する少女・花苗が不憫で仕方なく思えました。放課後の駐輪場、貴樹が部活が終わるまで待つ花苗が何とも愛しい。しかし、貴樹に恋愛する気が無いと思うと、見ているこっちが辛くなりました。
花苗に優しい貴樹。でも花苗だから優しいのではなく、他人に興味がないが故優しいと思う、花苗が報われないなと思ってしまいます。
「優しくしないで」というセリフは、好きにならないならという花苗の悲痛な思いが込められていたと思います。しかし貴樹にはその思いは届かない。
このシーンは、難しいですね。好きになってしまったものだからしょうがないけど、諦めるしかない恋愛ほどつらい思いはないと思います。
見ている側としては、「そういう恋愛もあるよね」で済まされると思いますが、実際にやられたら相当メンタルがやられると思います。私だったら絶対無理ですね。
第3話 秒速5センチメートル
貴樹の部屋に桜の花びらが入るシーンから始まる、この第3話。
このはこれまでの2つの話をまとめた上の話だと思いますが、一番考えさせられる内容でした。
シーンの切り替えが早い後半は大人になったことで時間が進むのが早くなったこと、東京のせわしなさを表現しているようにも見えます。
けど、問題は何が二人を裂いたのだろうという所だと思います。
繋がっていた二人の心は、遠くに住んでしまったために離れてしまっていたのでしょうか。秒速5センチメートルで二人の心は離れてしまったのか。
鹿児島と栃木は1,500kmほどの距離。秒速5センチメートルで近づいていればちょうど1日で辿り着く距離。もし、会おうとしていれば変われたのかな。
いろんな考察をしてしまいました。
貴樹が鹿児島に転校してからは手紙のやり取りがなかったように思えます。となると、13歳のあの日は決別という意味だったんでしょうかね。
最高であることだけが幸せではないのだろうな。他に大事なものんがあるんだろうか。自分ではっきりしたことはわからなかったけどそう思いました。
そういう関係性になってしまった二人にとって、あの踏切で会わなかったのはどうも悲しいけれど正解のように思えました。そんな関係になる前に何かできたはず。いや、元からそういう運命だったのかもしれない。
運命という単語で縛ってしまえれば、貴樹が救われるように思います。
花苗が貴樹は他の人と違う、と言ったのは多分、周りのことは見ていなかったのではないかと思いました。遠くばかりをみて近くのことは何も見えていなかった。そんな風に感じました。
・全体的な感想
短編アニメということもあって、テーマというのはないのかなと感じました。それぞれの時間軸でそれぞれが、その時に思った何かを表現する。それがなんだか出きすぎていない感じがして、ちょうどいいなと思いました。
人間っているのは急激に変われない。どこかの何かが積み重なって、来た道を少し引き返しながら生きているのだろうな。この作品を読んで、改めてそう感じました。
すごい哲学チックな感想になってしまいましたが本題に戻ります。
総じてこの作品は好きだなぁというのが本音です。
確かにハッピーエンドではないですが、嘘と都合で塗り固められたハッピーエンドよりも、幾分か正直で信じられないようなバットエンドのほうが写実的だと私は思います。
まぁ、あと現実で似たような別れをしたくない私にとって、こう作品で辛い別れをやってもらった方がこちらとしても救われます。
あと最後の別れ方。中途半端に出会ってよりも、素晴らしい別れ方だと思います。さっぱりしていて、文学的で、それが分かれてしまった二人の距離感。そんな締めくくりが好きでした。
多分これは定期的に見たくなる作品ですね。
多分好みは分かれると思いますが、皆さんはいかがだったでしょうか?
観たことある人はもう一度、観たことない人はこれを機に、観てみるのはどうでしょうか?
〈作品情報〉
監督・脚本 新海誠
音楽 天門