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【あらすじ・見どころ】『風鈴』/ 松浦理恵子

〈あらすじ〉

今回は短編であるため、あらすじはほとんどネタバレを含みます

ご理解の上、読み進めください

 

 

 

  アオイはと都会とは少し離れた、ある集落に生まれた少女。彼女は一つ下で幼馴染のワタルとともに、自然に恵まれた田舎で育っていた。

 アオイの住む集落はそれなりに交通の便が良く、自然が多いことから映像業界の人たちが時たま訪れるのだった。アオイが小学五年生の頃、ミヤビという中学生の少女が俳優の父に連れられてやってくる。初めは仲良くしていた三人だが、ミヤビの少しずるい性格から、三人の仲は少し崩れてしまう。しかし、夏休みの工作の課題を進めるうちに三人は再び仲を取り戻し、木の風鈴を作ることに成功する。そして、風鈴が完成した翌日にミヤビは東京に帰るのだった。

 そのすぐあと、今度は別の撮影隊が集落を訪れる。アオイはその中で、少し気味が悪い青年に目をつけていた。アオイは気持ち悪いとずっと思っていたが、ワタルは微塵も思わず、むしろ仲良く接していた。しかし、ある日ワタルが行方不明になってしまう。アオイは例の青年が連れ去ったのだと思い必死に捜索するも、すでにワタルは亡くなっていた。

 

 

 

〈見どころ〉

 

 見どころ①

 都会と田舎、大人と子供という一般的な対比に基づいた構成ではあるが、

内容はかなり残酷で、容赦なく写実がされているというインパクトが

強い作品であった。

 現代的に言えばマウント、なんて表現になるのかもしれないが、

子供、特に小学生の頃の「力の差」は、人間関係の構築に大きく左右する。

 この作品でいえば、都会であるとか、お金を持っているとか、年上というだけでかなりのアドバンテージであり、それがステータスである。

 それが顕著でリアルだからこそ不気味な部分である。いや、子供の頃は自由に表現していた「マウント」が、大人になると陰湿で意地汚くなるだけなのかもしれない。

 しかし、そういったものが良くも悪くもストレートに描写されている。

 端的に表すならば、「いい意味で気持ち悪い」という表現が近いかもしれない。

 嫌気がさすほどの不快感というよりは、人の本質が生々しく描かれている点がそういう感想を抱かせるのだろう。

 

 

見どころ②

 ①では少し批判ととらえられるような内容を書いたが、

一方でこの作品ではわずかではあるが救いがある。

 次第に離別へと向かうアオイ・ワタル・ミヤビであったが、

自由研究の風鈴作成を通して再び仲を取り戻そうとする。

 こうした意味ではかなり救われているだろう。

 常にマイナスにしか進まない、子供の純朴さが

大人の暗然たる悪を淘汰している。

 この気鬱な物語の一筋の光である

 

 

〈総評〉

 子供という時代から大人を見たときのグロテスクさが巧妙に描かれている作品。これを読めば「いい意味で気持ち悪い」という表現がわかるかもしれません。

 是非読んでみてください。

 

 

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