【あらすじ・見どころ】『サブマリン』/伊坂幸太郎
〈あらすじ〉
家庭裁判所職員として働く武藤は、少年犯罪に関する試験観察や調査などを行っている。
ある日、無免許運転で交通事故を引き起こした少年・棚岡の調査を担当することになる。武藤がどれほど問い詰めても、事件についての様子を述べようとせず、生気のない返事ばかりが返ってくる。しかし両親を事故で亡くしているという情報を手に入れると、上司の陣内はさらに調査を進めるように促す。
少年はなぜ無免許で運転をしていたのか、両親の事故とどういう関係があるか。
調査によって少しずつ明らかになる真実。世の中の正解とは何なのか。変わり者の上司・陣内と繰り広げられるコントのような会話の中で、現在の司法と倫理観に深い問題提起をする一作。
*少しネタバレを含みますので、読み進める際にはご注意願います。
〈見どころ〉
見どころ① 事故は許されるのか
これはもちろん終わることのない議論であろう。その時の状況次第と言われればそれまでである。
そういう理由で考えることは簡単にやめられる。しかし、だからといって放棄していい思考ではない。
具体的には書かないが、この小説では被害者・加害者両方の視点で考えることができる。それゆえ私は結論を出すことができなかった。
被害者であれば、加害者がのうのうと生きているのは許せない。一方、加害者であれば罪を償って反省したのであれば、自由に暮らしたいと考えるだろう。そんな二律背反な結論しか出すことができなかった。
ただこの小説を読んで二つの立場を考えることができれば、一方的な批判を減らすことができるだろう。未成年だから、無免許だからという偏屈で差別的な判断をするひとは減るのではないか。
無論、加害者が全面的に悪いという事故も多いだろう。しかし、もしかしたら加害者にも事情があるのかもしれないと、多角的や視野で事件を考えることが何よりも重要なのではないだろうか。
見どころ② 人生を左右するのは運なのか
この小説のテーマの一つとして、人生を左右するのは果たして運なのかという問いかけをしているようにも感じた。
当然、個々人の努力も反映されるだろうが、運が大きく左右するというのも生きて居ればわかるはずである。
この小説内で、人生を麻雀に例えている箇所があるが、これまで見た例えの中で傑出していると感じた。
「最初に十三枚の牌を配られて、それがどんなに悪くても、そいつで上がりを目指すしかない。運がいい奴はどんどんいい牌が来るだろうし、悪けりゃ、クズみたいな自摸ばっかりだ。ついてない、だとか、やってられるか、だとか言ってもな、とちゅうでやめるわけにはいかねえんだ。どう考えても高得点にならない場合もある。けどな、出来るかぎり悪くない手を目指すしかないんだよ」
このセリフを中心に、人生の真髄について考えるいいセリフが立ち並んでいる。
見どころ③
これは伊坂作品ならでは、 だと思うが彼ならではの独特な比喩表現。
そういう言い回しをよく思いつくなと正直驚嘆してしまう。
彼のような比喩を出来る人物はかなり少ないのではないだろうか
〈総評〉
小説としてのストーリーがおもしろいのは勿論であるが、哲学的な要素も大きくかかわっているのでそういった面から見ても面白いだろう。
読めば読むほど湖のそこへそこへ向かうような「深い」という感覚を味わうことができる。そんな不思議な体験をぜひ味わってみてはいかがだろうか?
〈書籍〉