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【あらすじ・感想】「パッとしない子」/辻村深月

〈作品について〉

 本屋大賞の常連、直木賞作家の辻村深月による短編小説。

 

〈あらすじ〉

 今や日本で知らない人はいないであろうトップアイドルの高輪佑。小学校教諭の松本美穂は彼の弟の担任を受け持っていたこともあり、彼とつながりがあったことを誇りに思っていた。一方、美穂は、小学校時には「パッとしない子」であった彼がアイドルになるまで成長したことに驚いてもいた。

 ある日、テレビの取材で美穂の勤める学校に佑が訪れることが決まり、美穂はひそかに楽しみにしていた。顔を合わせることなく、少し落ち込んでいると、職員室には取材を終えた佑が話をしていた。不意に目が合い、名前を呼ばれた美穂は心が躍る。

 「ちょっとだけ話してもいいですか?」と二人での会話を求められ、隣の会議室に呼び出される。期待する美穂だが、佑が話したいこととは……。

 

〈見どころ〉

 

 見どころ①

 記憶なんてものは、あくまで主観的かつ自己主張をするエゴである。

 客観的な結果に基づく事実とは程遠いもの。

 自分の中での真実と他人の中での真実には、やはり齟齬が生じる。

 そういう経験はだれしもあるのではないだろうか?おそらく、少し記憶を辿れば思い出せるはずだ。

 

 

 

 

 この小説は、そういう人として備わっている欠陥について考えさせられる小説だった。

 そんなものどうしようもないというのもまた事実で、解決の仕様はない。

 できることなんて、記憶の乖離が起きる前に丁寧に丁寧に仲を紡ぐことぐらいなのではないか。

 

 

 そして、この作品は「人の汚さ」が多く出ている。私たちのような一般人からすると芸能人なんて遠い存在だ。近づくためにはなんでもする。いや芸能人に限らず、好意を寄せる相手だったり、見下した相手に対してもそういうことはあるであろう

 嘘や誇張を厭わず近づく輩、優位をとる輩。

 したことがないのか?と聞かれたら、はっきりないとは言えない。パッとは出てこないが、どうせそうした虚構なんてその場しのぎに過ぎないのだから、経験があっても思い出すことはできやしない。

 一方、それで間接的に傷つく人がいるということは忘れてはいけないと感じた。

 話を盛る、若干の嘘というのは、例えばお笑いなんかでは常套句ではあるが、危険も持ち合わせているのだと感じた。

 

 悪意のない言葉。それはどこまで人を傷つけているかはわからない。人に対して述べる裏表ない言葉は、自分がその人物に対して抱く率直な感想なのだろう。

 「パッとしない子」

 人それぞれ捉え方はあるのだろうが、それは人の性格だけを示すわけではなのかもしれない。

 

 

 ただ、二つの見方ができる点、「人の汚さ」がにじみ出ている点はこの小説の醍醐味ではないか。

 

 

【書籍】

辻村深月(2017)『パッとしない子』 amazon publishing

 

 

パッとしない子 (Kindle Single)

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