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【あらすじ・見どころ】『崩れる脳を抱きしめて』知念実希人

 

 「私は幻なの。私とあなたが出会ったのは奇跡みたいなもの。けれどもう奇跡はお終い」

 

 

 

 

 

 

〈あらすじ〉

 

 医師国家資格を見事獲得し、研修生として様々な部署で修行中の碓氷蒼馬(うすい そうま)。彼がやってきたのは所属する広島中央病院から遠く離れた神奈川県の自然に囲まれた葉山町。休養がわりにと紹介されたそこは全室個室、富裕層向けの療養型病院であった。高齢や重い病気を理由に「長くは生きられない人」に向けたその病院で、碓氷は一人の女性と出会う。

 弓狩環(ユガリ タマキ)。彼女は自らをユカリと呼んでと不思議な頼みごとをする。独特雰囲気の彼女に対し、すぐさま魅了されていく碓氷。二人の距離は近づき、ユカリは碓氷の過去にまで救いの手を差し伸べる。

 

 二人を引き裂いたものは「研修期間終了」という、避けられないものだった。ユカリに思いを伝えられなかった碓氷は後日、ユカリの元を訪れようとする。しかし、碓氷のもとへ弁護士が訪れる。

 

 「弓狩環さんは四日前に亡くなりました」

 

 彼女との思い出はすべて偽りだったのか、彼女は本当は幻だったのではないか。彼女の影を追い求めながら、碓氷は自問自答を続ける。

  ユカリさんが本当に望んでいたことは、真実はいったいなんなのか。

 

 彼女の姿を追い求め奔走する、若手研修医の葛藤と奮闘を描いた恋愛小説。

 

 

 

〈見どころ〉

 

 

 今回はこの作品。

 『崩れる脳を抱きしめて』。

 2018年本屋大賞にて8位に輝いた作品です。

 著者の知念実希人さんは医者ということで、医療系の小説をメインで出版していますが、今回も医療系の小説となっています。また、ミステリー好きの彼らしい、推理要素たっぷりの内容となってます。

 

 

見どころ① 驚きの2部構成

 

 

 「2部構成のどこがすごいの?そんなのよくあることじゃん」とおっもわれる方もいるかと思います。しかしこれ、すごいんです。

 私は知念さんの作品を読むのが初めてで、事前情報も仕入れずに読みました。そして、2部にあたるところを途中まで読み進めてようやく気付きました。 

 「この小説、事件編と解決編の2部構成だ……!!」

 

 そう、この小説は何とミステリーである事件編と解決編のふたつにわかれていたのです。ミステリー好きの知念さんだからこそだと思います。とはいっても殺人事件が起こるわけでも、碓氷が逮捕されるわけでもありません。この「事件と解決」というのは「ユカリさん」に関することについてなのです。それがこの物語の大きなミソとなるのですが、事前に情報がないと気づかないですねこれは。

 

 今から読む皆さんは、この2部構成の意味を知っていしまいましたが、それでも楽しめる、いや普通以上に楽しめるかもしれません。

 伏線を気にしないで読んでも良し、またどこが伏線何だろうと細かく注意して読むもよし。楽しみ方は人それぞれだと思います。

 

 

 

 

見どころ② 2度楽しめる小説

 

 そう、さらにポイントとして2度楽しめるということです。

 「解決編」を読んだ後であれば、「あ、ここのこの場面こういうことだったんだ」となるはずです。さらに言えば解決編の中にも伏線があるので、○○一冊読み返しても面白い作品です。

 

 

見どころ③ 裏切りの連続

 

 私はこの2部構成に気づけなかったわけですが、だからこそめちゃくちゃ悔しかったです。何が悔しかったかというと、伏線と思われるところをほとんど気にしていなかったからです。

 

 しかし、だからこそ後半の「解決編」はすごくすごく楽しむことができました。「ここでこうなるのか」と考えもしない方向に物語が進み、これまでのすべてがひっくり返るような事実が告げられたりと、予想ができない展開が続きます。「早く次が読みたい」と後半部分はぶっ通しで読まなきゃいけないほどに状況が二転三転とするため、読んでいて興奮すること間違いなしでしょう。

 

 

 

〈総評〉

 

 

 後半の展開の仕方がかなり面白く、その逆転ともいえる伏線回収は感服いたしました。だからこそ逆に悪いところも見えてしまう訳なのですが……。というのも、前半が少し安っぽいというか、簡素というか、少し物足りない感じがしました。私は「本屋大賞8位」ということを知っていて読んだため、「本屋大賞ってこんなレベル何だっけ」と正直失望してしまいました。

 

 まぁ、それもここまで急展開かつ裏切られると思っていなかったので仕方ないかもしれないですが、前半部分はいわゆる「普通の小説」過ぎるため、前半で読むのをやめてしまうひとがいそう、というのがほぼ唯一の残念ポイントです。

 これから読む人はぜひ、しっかりと最後まで読んでもらいたいですね。

 

 

 それと内容以外にもうひとつ残念ポイントが。

それはこの年の本屋大賞辻村深月さんの『かがみの孤城』であったことです。

 例年、本屋大賞の大賞作はおおよそ300点代後半~400点代前半、高くても500点代前半だったのですが、2018年は651点というぶっちぎりの点数をたたき出しています。いや、恐ろしすぎる……。

 これが無かったら確実にもっと注目されていた作品であると思うし、だからこそ残念な点でもあります。

 

 

 といっても残念ポイントはそれぐらいですかね。

 見どころでも述べたように、後半の「裏切り」の秀逸さ、構成力は素晴らしく、内容自体も申し分ないぐらいに面白かったです。

 また、研修医の碓氷のピュアな恋愛も楽しめる一つの要素ではないでしょうか?

 

 総評は以上です。気になった方がいましたら、ぜひとも読んでみてください。

 

 

 

 〈書籍〉

 

 知念実希人 『崩れる脳を抱きしめて』 実業之日本社 2017年

 

 

崩れる脳を抱きしめて

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