【あらすじ・見どころ】『青のオーケストラ』/ 阿久井真
たった四本の弦。そこから奏でられる音が俺を掴んで離さない。
〈あらすじ〉
プロヴァイオリニストの父が離婚をしたことが原因で青野ハジメはヴァイオリンを弾くことをやめていた。
ある日、体育の授業で顔面にボールがぶつかったハジメは保健室で寝ていた。ふと聴こえてきたのは、音を外してばかりのヴァイオリン。そこには、西日のせいか、キラキラと輝く少女が立っていた。
出会ってすぐにその少女・秋音リツコと口論となるハジメだったが、担任の武田先生にヴァイオリンを教えるように頼まれる。
「ヴァイオリンは辞めた」と言い張るハジメだったが、純粋無垢に聴くに堪えない音を奏でるリツコの姿は、楽しくヴァイオリンを弾いていた昔の自分と重なって見えた。
リツコのおかげでヴァイオリンと向き合いだしたハジメ。
止まっていた彼の時間が動きだす。人と人を紡ぐ音楽が描くアンサンブル青春ドラマ。
〈見どころ〉
爽やかな絵のタッチと魅せるデザイン力
外せないのはまず、画力とデザインセンス。これが本当にずば抜けてうまい。
マンガの絵は「伝える絵」と「魅せる絵」の大きく二つに分けることができる。
まず、「伝える絵」というのはキャラの動きや表情、状況などを背景、セリフ、擬音語、効果線なども併用して表現する絵のことである。
ただ週刊誌などでは特に背景の書き込みが無かったり、コマ割りが中途半端で人物が浮いてしまうことがある。あるいは効果線の書きすぎやダラダラとしたセリフ回しで非常に読みずらい構成になるマンガもある。
その「伝える絵」のバランスが巧妙である。空白もほどよくあるため全体的に見やすいし、かといって背景が疎かになることはない。擬音語の大きさも状況に適した大きさ・フォントを使用しているし、本当に文句のつけようがない。一番は空白の使い方が上手いことだろう。わざと空白を作ることで、それが見やすさにつながったり表情の余韻につながったりする。くどさが感じられない、爽やかで飲み込みやすい作り方をしている。
次に「魅せる絵」についてである。ここでは一ページ丸々使うあるいは見開きでの絵、ここ一番という場面での絵などを指すとする。
これも本当に綺麗な絵を描く上、使い分けがうますぎる。 ただこればかりはどうも言葉だけでは説明しきれない。がここでは注目してほしい場面を2つ挙げたいと思う。
一つ目は2・3年生の弦楽器の演奏を初めて見る場面である。生から同に変わる瞬間、弾いている時の躍動感、楽しそうに真剣に演奏する表情、力強さと優しさを兼ね備えた絵のタッチ。音楽を絵で表現するのは難しいと思うがそれをやってのけている素晴らしいシーンだと思う。
二つ目は演奏会メンバーを決めるオーディションの時。この時のハジメがもうかっこいい。どの絵を指しているのかは見ればわかるだろう。一ページ丸々使ったハジメの演奏姿は、それまでの緩やかな流れをぶった切るようでシビれる。黒背景で描かれるハジメの目を見張るような迫力。なおかつスピード感もあり、その眼は真剣そのもの。ここまで人に訴えかけることのできる画力を持つ人はなかなかいないと思う。
〈総評〉
何度でも似たようなことを書くが、絵のセンスが素晴らしい。
試し読みをしているサイトなどもあるのでぜひ読んでいただきたい。
読みやすさで言ったら今まで読んだ中で三本の指には入る。いや、誇張抜きで。
余計なものが無く、ピッタリとまとまるデザインセンス。青春を切り取る綺麗な絵。
爽やかな春風吹き抜ける、そんなイメージの作品。
気になった方は「マンガワン」というアプリで読むことができるので、まずは一話を読んでみてください。
〈書籍〉
阿久井真 『青のオーケストラ』 小学館